ZENG SIQIN

『金沢回想録』, 2017

hand-made art book (A5)

tracing paper/ TPU/ thread/ tickets/ receipt/ etc.

 学部3年生の時金沢美大への交換留学の経験に関する記憶をこの一冊の本に凝らした。その中、書いた随筆、撮った写真と帰国後追記した思い出が含まれている。他国での孤独感が文字に滲み出ているが、そこにはいつも良い後味が残っている。

 本の中には、トレシングペッパー、TPU など半透明な質感の素材は記憶の曖昧さに還元してくれた。北京から大阪への航空券や、至る所に得た様々な領収書、レシートなどは、その旅の証拠として、時間と記憶を守ってくれるこの本の一部にした。

 わたしは孤独者としての最大の自由を放棄しました。すなわち、いかなる時も誰かになる自由を諦めることを指します––ここで常にすれ違った人たちのようになり、傘を持ち、この道に沿ってずっと歩いていくことです。もしかしたら二日か三日をかけて、深い眼差しでこの町を眺めるでしょう。 表面的な幸せを裏切ってでも本当のロマンチックを探すべきでした。

 この町は海に至るまで広がっていて、この道は海の方向に向かって伸びています。しかし新鮮感のもたらした大きな愉悦の中で、私はそれらを見失いました。

––『帰り道』2017.11